03 紅葉智司・壱

●?学校?●

智司はどこかにいた。

ここがどこなのか、自分でもわからない。
思考がぼんやりとしていてまとまらない。
暗い……が、真っ暗というわけではないが、なんとか周りを見渡せる程度の明るさだった。

「教室?」

見たことのある机の列。
正面の教卓と黒板。背後にはロッカー。
どこにでもありそうだけれど、意外に学校ごとで特色のある教室の風景。
ここは智司の通うT大付属高校の教室で間違いない。

だが……。

「なんで、僕、教室に?」

それが思い出せない。
こんな暗い時間にどうしてここにいるのか?
こんな時間になるまで何をしていたのか?

「とにかく、帰ろう」

荷物はどこだろうか?
学校にいたなら鞄があるのでは?
そういえばスマホは?
高校進学のお祝いに買ってもらったスマホがない。
制服のポケットには何も入っていない。

「くそっ!」

まとまらない思考に苛立ちながら教室を出る。
廊下も同じように暗い。照明は付いていない。それなのに薄青い光が空間全体を染みるように照らしている。

定まらない足取りで廊下を進み、階段を探す。
なにか薬でも盛られたのだろうか?

なぜここにいるのか理解できない。
とにかく、家に帰ろう。
まっすぐ歩けないことに苛立ちながらなんとか下駄箱にまで辿り着く。
下駄箱前まできて、ようやく今まで自分が靴を履いたまま学内を歩いていたことに気付いた。
智司はわずかな罪悪感を抱きながら玄関のドアを押す。
開かない。

外は暗くなっていることから、おそらく時間帯は夜なのだろう。
それもそうかと玄関のドアの鍵を探したが一向に見つからない。
この時間なら警備員がいるかもしれないと思い立った智司は再び歩きはじめた。
靴のことはもうこの際だからとそのままにした。

「すいませーん」

呼びかける声は廊下を反響するも、誰にも届かない。

「なんなんだこれ?」

どこのドアを探しても鍵がかかっていて開かない。

だんだんと頭がすっきりしてきたような気がする。このままうろうろしていたら警備会社が異変に気付いてくれないだろうか?
自力の手段が見つからなくてそんなことを期待するしかなくなってきた。

「結局、開いているのはここだけか」

出口探しの末、智司が最初にいた教室に戻ってきてしまった。
このまま朝まで過ごすしかないのかとうんざりした気分で開ける。

「……え?」

背があった。
教室内に並ぶ机に着席する背、背、背……。

「あ、失礼しました」

反射的にそう言って廊下に戻り……。

「え? いや、おかしいだろ」

すぐに気付いて再びドアを引いた。
そこには誰もいなかった。

「なんだよ」

誰もいない教室。
だけど、ついさっきはその机の全てに誰かが座っていたのだ。
見間違いとは思えない。
いつもの制服の背中が並んでいるだけなら幻視をしたということはあるかもしれない。
だが、後ろ姿は制服だけではなかった。誰かもわからない人たちの背中もあったのだ。
むしろそちらの方が多かったように思う。
だからおかしいと思ったのだ。
でも、それもいまはない。

「なんなんだよ」

やはり気のせいだったのだろうか?
だが、しかし……。
智司は頭を抱えた。

「おかしいだろ。なんだよこれ? だいたい、僕はなんでここにいるんだよ? 変なんだよ。絶対変なんだよ。思い出せ、思い出せ、思い出せ……」

廊下に座り込んだ智司は拳を額に当てて呟き続ける。
体内で少しずつ成長していた恐怖がいまの一瞬で心臓を掴んだ。上昇した脈拍が運ぶ血液は冷たく、体温をどんどんと下げていく。

「思い出せ……」

指の関節を額に押し付けて脳を刺激する。

「あっ……」

一つ、思い出した。

「ツネがいるんじゃないのか?」

竹垣常久(たけがきつねひさ)。
同じ学校に通う智司の友人だ。
もしかすると彼もここにいるかもしれない。